月刊アイソス 2016年1月号掲載

ISO9001(2015 年版)改正の
ポイント解説と統合マニュアル改定文例
      
第4回 統合マニュアルの作成
 
-目標及び実施計画の作成、支援プロセス-
 
 
  前回の続きで、「計画プロセス」の中の目標及び実施計画作成」「支援プロセス」を紹介します。
 
*  目標の設定と実施計画の策定
 ISO9001:2015 では品質目標、ISO14001:2015 では環境目的となっていますが、原文はobjectives で同じ種類のもので、邦訳の違いによるものです。
 この章の直接の要求条項は ISO9001:2015  6.2項及びISO14001:2015  6.2項 で旧規格書に対して大きな変更はありません。しかし、6.2項の前後の条項で目標及び実施計画を策定する条件が大きく変わっています。
 新規格での考慮点は、「パフォーマンス指標の設定」「トップマネジメントがマネジメントシステムの有効性に対する説明責任を持たなければならない」という点です。
 

 ここで、パフォーマンスとは何か、パフォーマンス指標とは何か、を考えて見ます。
 用語の定義では、パフォーマンスとは、「測定可能な結果」です。パフォーマンス指標とは、「パフォーマンスに重要な影響を与える特性」となっています。パフォーマンスが測定可能な結果であることを考慮すると、パフォーマンス指標とは、目的、目標、プロセスの評価基準に対する達成状況を測定する指標とも言えます。
 ISO9001:2015年版、ISO14001:2015年版、では、経営者はマネジメントシステムの有効性について説明責任を負うことになります。マネジメントシステム及びプロセスの有効性とは何でしょうか。図表2は、マネジメントシステムの有効性の改善のPDCAサイクルを示した図です。
   
図表2 マネジメンントシステムの有効性とは
 図表2において、パフォーマンス指標が、適切に設定されていれば達成度が確認でき、未達成のときの原因究明もやりやすくなります。達成した時は、組織の能力が向上する。未達成のときは、次からどうすればよいかというノウハウが習得できることによって組織の能力が向上します。このことによって、マネジメントシステムの有効性が改善されます。
 パフォーマンス指標は、結果に重要な影響を与える特性ですが、改善以外に、結果に影響を与える外乱要因は沢山あって、目的、目標を設定するときに重要な影響を与える特性を選ぶことは大変難しい。結果としてマネジメンシステムの有効性が評価できないという事例を多く見かけます。
私は、これまでの経験から中期目標及び全社目標はコア指標、年度目標又はプロセスの指標はサブ指標を設定することをおすすめしています(図表3)。
 
図表3 達成度を的確に評価できるパフォーマンス指標の例
  
 
 例えば全社目標のパフォーマンス指標が顧客満足度であったとすると、部門の年度目標のパフォーマンス指標はクレーム発生率、工程内不良率、100%オンタイム納入率とします。
 また,全社の中期目標のパフォーマンス指標が二酸化炭素排出量であったとすると、部門の年度目標のパフォーマンス指標は、作業時間、段取替え時間、高能率設備の稼働率、歩留まりなど、日常業務の中で確認できる指標を設定します。指標は、複数あっても構いません。
 このようにすることによって、評価基準に対する達成見込みを的確に把握することができます。
 
*  支援プロセス
 
 ISO9001規格のこの章の主な変更点は、1つ目は「資源」の対象が内部だけでなく外部の資源についても考慮することです。
 2つ目は、資源の中に「組織の知識」という条項が追加になったこと。
 3つ目は「コミュニケーション」について内部コミュニケーションのみならず外部コミュニケーションについても考慮することが求められています。
「コミュニケーション」については、ISO14001 でも「著しい環境側面について、外部コミュニケーションを行うかどうかを決定する」から「環境マネジメントに関連する情報について外部コミュニケーションを行わねばならない」に変更になっています。
 4つ目は「文書管理」「記録の管理」統合されて「文書化した情報」となったことです。
 5つ目は「力量及び認識」は「組織の管理下で業務を行う人」も対象になりました。

その他、細かい点では、「作業環境」が「プロセスの運用に関する環境」という表現に変更になりました。
 
*  組織の知識
 組織の知識は、日本からの提案で、スタッフの離職や情報の取得や共有の失敗から製品及びサービスの不適合が発生することを防ぐことを目的に導入された要求条項です。具体的な事例は、ISO/FDIS9001:2015 7.1.6 注記2に紹介されている。
 ISOP社の場合は、リスク及び機会への取組みで「創業者の技能がスムースに伝承されない場合、特殊な仕事について品質・納期・コストで顧客要求に答えられない可能性がある」というリスクを決定しており、その取組みを「組織の知識」としています。
 
 
*  文書化した情報
 
 2015年版では、文書化した手順が文書化した情報の維持に変わり、記録が文書化した情報の保持という表現に変わりました。このことは、IT化の進展により紙による文書から電子媒体に変わって行くことへの対応です。
 また、重要な事は、文書化した情報の複雑な管理システムではなく、マネジメントシステムの有効な実施及びパフォーマンスの向上である、という意味も込められています。
 ISO9001:2008 年版及びISO14001:2004年版で、既に文書管理や記録の管理の手順を定められている組織では、「文書」「記録」といった表現を「文書化した情報」と書き換える必要はありません。しかし、電子媒体による管理に移行し管理システムを簡素化することは有効でしょう。
  
 
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