2.リスクアセスメントのプロセス

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JIS Q2001には、リスクマネジメントシステムを構築するための一般原則が定められています。
この原則に従って、製品安全や労働安全衛生・情報セキュリティー・コンプレイアンスといったリスクマネジメントの規格が作られています。

どのようなリスクであれ、リスクマネジメントのステップは、方針、計画、実施、パフォーマンス評価、是正・改善、トップによるレビューというプラン、ドウー、チェック、アクションのサイクルに従っています。

この中では、特に計画:リスクアセスメントがポイントとなりますので、リスクアセスメントメントについて説明します。


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リスクアセスメントは、リスク分析、リスクの評価、リスクコントロール、リスクマネジメントプログラムの策定、といったステップで構成されています。


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リスクアセスメントの手法には、ハザードを抽出し評価する方法と、失敗モードを抽出し評価する方法があります。
医療安全では失敗モードによる方法、FMEAが主体となりますのでFMEAを中心にして説明します。

FMEAとは、Failure Mode and Effect Analysis の略です。
1950年代に米国軍用規格として制定され、その後、航空機、原子力、化学、電子、食品加工など広く民生部門にも活用されてきました。
また、最近では医療安全にも導入されつつあります。


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では、FMEAはどんなときに活用するかというと、新しい治療設備・治療方法・業務手順を設けたときや、システムを根本的に見直すときに実施するのが望ましい。

なぜかというと、FMEAにより出されたリスクは、人よりも設備・機器、人員配置・訓練、作業環境といった基本的な対策が中心となります。
これらの対策は、後で実施しようとすると操業中断や追加費用が発生し効率が悪い。結局、やらないでウヤムヤになる恐れがあります。
また、FMEAを行なうには、かなりの手間がかかります。
日常における再発対策には、後で紹介する「根本原因分析(RCA)手法」を用いた方が、より簡単にできます。


ここからは、リスクアセスメントのステップを順番に説明していきます。

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先ず、リスク分析を行なうプロセスを選択します。
このグラフは、2003年日本品質管理学会誌で紹介されたものですが、明治大学、PL病院の過去の医療過誤1000件のデータを元にすると、投薬プロセス、検査・手術プロセスが相対的にリスクが高い、即ち選択すべきプロセスとして取り上げられています。


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リスク分析をするプロセスを選んだら、そのプロセスの流れをフロー図にします。
ここでは、投薬プロセスを書きかけています。


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次に、フロー図の中の各手順についてブラックボックスを用いて失敗モード洗い出します。
このブラックボックスには、医療における基本的は失敗モードを網羅してありますので、これを元に具体的な失敗モードを書き上げます。


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例えば、処方箋の内容確認と言う手順では、「カルテの文字を略式が書かれていて読み違いが起きる」「内容を誤認する」「呼び出しがあったときに処方内容を忘れる」といった失敗モードが洗い出されたとします。
この失敗モードが起きる可能性と、起きたときの患者への影響度を点数評価しかけ合わせて、基準点数以上の失敗モードについて対策案を検討します。
この例では、9点以上は直接原因に対する対策を行なう、12点以上は物理的原因にまで遡って対策を行なう、といった基準を設けています。


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対策案は策定されたら、その対策をいれて再度リスク評価を行ないます。
リスク評価の結果、全てのプロセスで、許容できないリスクがなければ安全な状態であると判断できます。

しかし、実際には対策案を実行してもリスクが残ります。
このリスクを残留リスクといいます。

残留リスクに対しては、人員配置などのシステム設計に遡って対策、防護手段の設定などのリスクコントロール手段を設定します。


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リスク評価の対策案及び残留リスクのコントロール方法を、リスクコントロールプログラムにします。
プログラムには、誰が、何を、何時までに行なうかを具体的に記載します。


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プログラムができたら、これを実行すること。

これと並行して、どのような緊急事態が起きるかを想定し対応手順を定めておきます。


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計画が実施されたらパフォーマンス指標を定めて、その実施状況及び目標の達成状況を確認します。
医療安全の場合が、インシデント・アクシデント報告制度がこれに相当すると思います。


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収集したデータに基づき根本原因を分析し、マネジマントシステムを改善します。
根本原因の分析手法には、特性要因図、FTA、なぜ5回、RCAなどがあります。

医療においては、2000年に米国退役軍人患者安全センターがRCA、Root Cause Analysis
を開発し、この方法が主流になりつつあります。
RCAについては、後程第4章で説明します。

⇒ 3. 産業界での実施例

2006.11.07.15:54 | Permalink | MENU